キネティックチェーン
今回は「キネティックチェーン」についてお話しします。人体には約600を超える筋肉がありますが、これらは互いに影響しあって力を発揮ています。この筋肉および動きの連鎖をキネティックチェーン(運動連鎖)と呼びます。簡単に言うと体の使い方ですね。これがうまくできていると様々なメリットがあります。
・姿勢や動作の安定性が高まる
・小さい力で大きな効果を得られる
・筋肉や関節を破壊してしまう様な無理な動作が発生しづらくなる
・特定部位を酷使する割合が減る
ちなみにキネティックチェーンをうまく働かせられないと、あらゆる運動・トレーニングの効率が悪くなる上に、ひとつひとつの行動が抱えるリスクが高くなってしまいます。無意識にできちゃう人は良いのですが、意識しないと・しても使えない人だと、「特に心当たりもないのに突然関節に違和感が出て、気づいたら痛みが取れなくなっている」とか「コーチに指導された体の使い方が理解できなくてスコアが伸びない。運動が得意だと思っていたのに自信をなくしそう」とか解決し難い悩みを抱えることになります。人間の体って当たり前に動かせている様で、意外と操作が難しいんですよね。こういった悩みはわりかし多くの方が抱えていることかと思うので、トレーニングに関して僕がサポートさせていただいた例を紹介させていただきます。
例:成人女性・マシントレーニング
修正前
・グルートマシン(お尻の筋肉)17.5kgがギリギリ。20kgは動かない。
・17.5kgで腰周りに違和感を感じるのと、力が入り切っている感じがしない
・「見かけ上のフォーム」はほぼ間違っていない
という状態でして、今回の動作に関係するポイントを修正したところ変化がありました。
修正後
・しっかり力が入っている感覚があって17.5kgは余裕をもって上がる。22.5㎏で丁度いいかも?25㎏でも上がる。(ご本人談ではこれがギリギリ)
・修正前の17.5㎏と比べると、25㎏で上げたときでも腰周りの違和感は少なくなった。
・フォームは腰椎・骨盤周りの可動がわずかに変化。
この間1分…というのは誇張しすぎですが、せいぜい3,4分くらいです。嘘でしょ!?と思われるかもしれませんが、これがキネティックチェーンをうまく使えるか、使えないかという差です。慣れていなくてコレなので、慣れたらもう少し伸ばせそうです。ちなみに、この方の場合は見かけ上のフォームはほぼ変わらない程度の変化でしたが、扱える重量は劇的に変化しています。もっと崩れている方だとより効果が高いかもしれませんね。
日常生活におけるメリット
今回はウェイトトレーニングを例に挙げましたが、スポーツに大きな影響があるのはもちろんのこと、日常生活におけるメリットがとても大きいんです。キネティックチェーンを使えている場合と使えていない場合で普通に生活していても、次に挙げるような差が広がり続ける可能性があります。
・姿勢の維持
良い姿勢を維持する場合、力の強い大きな筋肉で頑張って固めるみたいなことをするとすぐにバテてしまいますが、大小さまざまな筋肉をほどほどに連動して使うと比較的簡単に安定した姿勢を維持できます。
・免疫力が上がる
代表的な悪い姿勢として猫背を例にすると、肺が圧迫されて呼吸に影響が出るため、脳に供給される酸素が減り、脳の活動が低くなると内臓の活動も低くなり、内臓がうまく働かないと血液循環が滞り、血液循環が低くなれば体温も下がり…と様々な要素が連鎖的に悪くなっていき、これが免疫力が下がる要因となっています。姿勢が改善されれば、頭から順に改善されていくため、結果的に免疫力が高まるというか身体が本来もっている力を取り戻すわけですね。そのため、効率的に筋力を動員して常に姿勢を維持することが大切になります。
・代謝が高くなる(カロリー消費が増える)
良い姿勢を維持できる人とそうでない人で比べると、働かせている筋肉の活動時間と量が圧倒的に違います。この時、遅筋と呼ばれる「脂肪や糖質の燃焼能力が高い筋肉」を使い続けることになるので、最適な強度の有酸素運動ほどの効果はありませんが、活動時間の長さによって代謝の改善を促せます。
・日常的な行動が抱えるリスクを下げ、運動効果を高める
例えば荷物を運ぶとき、ひざを伸ばし気味のまま前屈して、腰を曲げた状態から足元にあるものを持ち上げようとすると腰周りにガッツリ負荷がかかります。そのまま運ぶときに腰を曲げたり、反っていたりすると、これまた腰周りに負荷が強くかかります。腰椎周りを引き締めて、膝を曲げて腰を落とした状態で、骨盤から背中までを真っすぐ維持したまま、膝を伸ばす力で持ち上げ、そのまま運ぶという流れにすれば、腰に集中する強烈な負荷が減少するだけなく、持ち上げるのに使う労力も少なくて済みます。何より、自重以上の負荷がかかったまま力が入らない状態で骨にダメージを肩代わりさせなくて済むので、長期的に見ても健康体でいられる可能性が高くなります。
この様に日常的にキネティックチェーンを使えている人は使えていない人に比べて活動量が高くなったり、姿勢維持が簡単になることで様々なメリットを受けられます。1日に起きている時間が16時間前後だとすると、この間ずっと少しずつ差が広がり続けるわけで…1か月、1年、10年と経つと馬鹿にできない差になります。
まとめ
競技スポーツの世界では耳にするキネティックチェーンという概念ですが、実際は人間の身体的な活動全般で大いに役立ってくれる機能です。というか、使えて当たり前にしていないと体が衰え始め、回復力が追いつかなくなった日から、体の耐久力が負けて、何も無理はしていないつもりなのに体が壊れるなんてことが起こり得るのが人間の体です。後日、超基本の体の使い方について動画をアップするので、この機会に体の使い方を意識してみても良いのではないでしょうか?
余談
世間がコロナ自粛の頃、当然僕も様々な活動を自粛していまして、頻繁に運動していた人間が活動係数でいうとレベルⅠ(低い)程度の生活になった上に、食事量は若干増やしていたので普通なら太りますよね?ところが、周囲がコロナ太りで騒いでいる中、6月上旬には体脂肪率9%(元は4月頭で15%)を割るくらいになっていました。何をしたかというと、「フィットネスのレッスンで教えている内容を1日中フルで意識し続けたらどうなるか?」というシンプルな内容です。ちょっとした人体実験ですね。結果、やり過ぎて体脂肪だけが下がりすぎてしまいました。こんな異常で不健康な下げ方をするのは本来は良くないことなので、みなさんはひと月あたり1.0~1.5%の減少に留めるのが無難かと思います。